職業奉仕の原点

1925年のRIの発表によると、ロータリアンが自ら制定に関与して、正しく実行され ている全世界の企業の道徳律は145に上ることが報告されています。 業界が採用した道徳律の中で有名なのが、ガイ・ガンディカーが作ったレストラン協会の道徳律です。若年労働者の深夜労働が当たり前だった時代に、現在の労働基準関係諸法や就業規則とまったく引けを取らないような規約を定め、更に職業倫理 基準、接客態度、サービス、取引関係、同業者対策、行政との関係、といったもの を事細かく決め、それを守っていったのです。

1920年、アメリカに禁酒法が制定され、期を一にしてマフィアがシカゴで活動を開始します。このレストラン協会の道徳律は、禁酒法の絡みでマフィアのターゲットになったレストラン業界を防衛するためにガイ・ガンディカーが作ったものと言わ れています。1920年から1930年にかけての10年間が、ロータリーの職業奉仕が社会に大きな影響を及ぼした爛熟期と言えます。 アルカポネは、10代半ばでニューヨーク・マフィアのチンピラとなり、1910年頃からシカゴで勢力を伸ばしつつあったジョニー・トリオの片腕となったのは、1919 年、彼が20歳のときでした。

1920年の禁酒法施行Iと共に、マフィアは大きく勢力を伸ばして行きます。 ロータリーの職業奉仕理念が完成し、その理念をロータリアン企業が実践に移して、業界全体の倫理基準を高めようとして活動し出した時期と、マフィアの勢力拡大の時期が期せずして一致したことは皮肉なことです。 禁酒法の施行されていないイギリス、特にスコットランドから輸入されてくる酒を 取り締まるために、両国が協定を結んだのは、二国間の争いを未然に防ぐためにロ ータリアンが実践した、他国法を尊重するという国際奉仕の成果であるといわれています。

マフィアによって牛耳られていた映画産業を粛清し、更に公開前にその内容を検討するために広報委員会をつくって映画の倫理規制を実施しました。禁酒法の影響を 受けて、マフィアの影響力が強かったレストラン業界を、ガイ・ガンディカーが作った「レストラン協会の道徳律」を使って改革したことは先ほど述べた通りです。 シカゴ・クラブ元会長のヘンリー・チャンバリン大佐をシカゴ市防犯委員長に任命して、マフィアの粛清に乗り出し、1920年マフィアの息のかかった保釈保証人を告 発したり、シカゴ・クラブ元会長ローシュ大佐の活躍も有名です。

連邦警察もエリオット・ネスを隊長とする特殊部隊を投入して、ついに1931年に所 得税法違反でカポネを逮捕し、翌年実刑11年の判決を受けて、アル・カトラスに収監されたことはアンタッチャブルの映画でおなじみの話です。 ちなみにカポネは若いときに感染した梅毒が悪化したため刑期半ばで釈放されまし たがフロリダで廃人同様の生活を送り、1947年に48才でこの世を去ります。奇し くもポール・ハリスの逝去と同じ年でした。

プロフィットを周りの人たちとシェアすることで自らの体質を改善して、大恐慌に も耐えうることを実証し、さらに有用な職業を尊重し、自らの職業を通じて社会に貢献し、業界の職業倫理の高揚を求めてマフィアと対決しながら、みごとに勝利を勝ち取ったロータリーに対して、ロータリアンは当然のことながら、一般社会の人たちも大きな尊敬と賞賛を与えたことは明らかです。

脱税、贈収賄、不公正取引、市場の買い占め、おとり商法、他国法無視、契約不履行、商標侵害、現在はそのほとんどが立法化されていますが、これらの不合理な商取引が公然とまかり通っていた時代に、これに毅然とたちむかって、ついに立法化 にまでこぎつけたのは、ロータリーの功績なのです。